減塩 という言葉が健康を保つために必須な生活習慣として政府や医師会が宣伝しています。摂取塩分量が高いと高血圧になりやすく、脳卒中や心臓疾患で死亡する可能性が高くなります。しかし、1日あたりの塩分摂取量が不足すると脱水症状を起こします。
減塩の意義とどれぐらい減塩すればいいのかを紹介します。
日本人に減塩は効果があるのか?
塩分の働き
体の中では食塩はナトリウムイオンとクロールイオンとして水に溶けて存在します。食塩量は腎臓が一定になるように調節しています。大人で体重の0.3%程度、子どもでは0.2%程度に保っています。体重60kgの人では180gの塩分量となります。
腎臓は塩分量が多くなると、尿から塩分を排泄します。不足している場合は尿になる途中で塩分を回収します。
塩分には3つの働きがあります。細胞の形を保つ。消化と吸収を助ける。刺激の伝達です。
細胞は細胞外液という水の中に浮かんでいます。細胞外液と細胞内液の塩分濃度を調節することによって細胞の形を保っています。
塩分の内、クロールイオンは胃酸の主成分です。ナトリウムイオンは小腸でエネルギーを使って栄養素を体に取り込む(能動輸送と呼びます)際に、重要な役割を果たします。
神経細胞は脳からの命令や、末端からの刺激を脳に伝える際に電気信号を用いています。この電気信号の伝達にはナトリウムイオンが関与しています。
塩の欠乏症
下痢や激しい発汗などで体内が塩分を急激に失うと塩の欠乏症になります。症状としては、口の渇き、頭痛、吐き気などによる脱水症状が有名です。
これは細胞内外のイオン濃度のバランスが保てなくなるためです。脱水症状の治療には単なる水ではなく、塩分が入っているものが望ましくなります。
クロールイオンが不足すると、体液のpH(ペーハーと呼びます)が産生に傾きだるさ・精神不安定、眠気などの症状がでます。
また塩分不足で筋肉の刺激が脳に伝わりにくくなると脱力感が起こることがあります。
なぜ減塩が必要なのか
体に必須の塩分をなぜ減らす必要があるのでしょうか。塩分摂取量の高い人の集団では血圧が上昇し、脳出血や心臓の病気により死亡するリスクが高くなると言うことが疫学的に分かったからです。
疫学というのはある生活集団を長期間にわたって観察し、死亡リスクを高めている原因を探る方法です。
体内の塩分量が一定であることから、塩分の摂取量を測定するためには24時間尿をためて、その塩分量をみる必要があります。
これを用いた疫学試験は日本では少ないのですが、いくつかの試験で塩分摂取量の多い集団で血圧が高く、個人でも塩分摂取量と血圧には正の相関がありました。(正の相関:塩分摂取量が増えると血圧が上がる)
日本では保存食に多量の塩分が用いていましたが、冷蔵庫の普及によりその塩分量は低下し、脳卒中の死亡率が劇的に低下しました。
欧米、特にアメリカでは肥満が多く、高血圧を避けるために塩分制限が声高に叫んでいます。これは心疾患系の死亡率が昔から日本より大変高かったためです。
日本においても肥満が増えてきました。そのため心疾患系の病気の罹患率は増えてきました。(治療方法の進歩により死亡率は減っています)。
日本人はどれぐらい減塩すべきか
1957年に実施されたアメリカ、日本、フィンランド、ユーゴスラビア、ギリシャ、イタリア、オランダの7か国共同の国際疫学調査では、日本とギリシャで冠状動脈疾患(心臓病の内心臓に酸素を供給している冠状動脈の疾患)の発生が少なくなっていました。
少ない原因は、ギリシャと日本での食事は脂肪分の摂取が主に植物オイルあるいは魚油であること、植物性食品が多く、加工品が少ない等の特徴がありました。
ギリシャの食事内容は地中海ダイエットとして世界に通用する健康食となりましたが、日本食に関してはその後の研究、改良が行われなかったために地中海ダイエットほどは健康食として話題になることは少なくなっています。
世界各国のガイドラインでは1日あたり、6g以下でないと血圧が下がらないことから、1日6g未満を減塩目標としています。
日本人における実際の塩分の摂取量は1~5歳で5g前後、6~9歳で7g前後、10歳以上で10gとなっています。日本人食事摂取基準では成人では男性8g、女性7gを目標値としています。
肥満でなければWHO(世界保健機構:World Health Organization)が推奨している5gまで下げる必要がいのかもしれません。
また、介入試験では9g前後に減らした場合にリスクが減るとの報告があります。疫学試験が結果から原因を推定するのに対し、介入試験は制限したら実際にリスクが減るかどうかを検証する試験です。
ビタミンEの抗酸化作用による心疾患リスクの低下は疫学試験で高かがることが分かっていましたが、介入試験を行ったところ効果はないことが明らかになっています。
まとめ
日本人に減塩は効果があるのか?
塩分の働き
なぜ減塩が必要なのか
日本人はどれぐらい減塩すべきか